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僥倖 21


「じゃあ、シュウサク帰るね……」
「えっ……」

敦子の声が聞こえ原田はあわててたちあがる。
いそいでバスルームに向かう。
歯を磨きに行った敦子は、リビングに戻ってこなかった。

「あっちゃん……」

敦子は玄関で靴を履こうとしている。
どうやったら引き止めれるか、原田にアイディアは、うかばない。

「ここ、どの駅が近いの……」
「駅、ごめん、いつも車だから駅は……」

この建物に来たのは二回目の原田。
最寄り駅まではわからない。

「そっか、じゃあコンビニで聞いて、遠かったらタクシーで帰ろうかな」
「送ってく、送ってくよ」
「ダメにきまってるでしょ、だれに見られてるかわかんないのに」
「そうだけど」

確かにそうだ。
敦子は元トップアイドルの人妻だ。
原田のような冴えない中年の部屋から朝帰り。
かなりのスキャンダルになる。
敦子はマスクをした。
帰るというのは本気のようだ。
しかし原田は思う。
敦子の帰るタイミングはいくらであった。
昨夜ものみすぎたから、それなら帰れた。
朝起きて人妻だから、とうぜん帰れる。
原田がコンビニに行った隙にでも。
だが敦子は、朝食まで食べてから帰ると。
このままズルズルするより、ここが、いいタイミングなのかもしれない。

「あっちゃん、下まで下まで送る、それはいいだろ……」
「ありがと」

原田はスリッパを履く。
解錠しドアをあける。
敦子が先に部屋からでた。
原田も後につづく。
急な階段を降りた。
せまい一階の扉の前で敦子は足を止める。

「じゃあね」

すごいできごとがあったわりには、あっさりとした敦子の言葉。
原田は気にいらないが仕方ない。
おなじように、じゃあと言おうとした。
その瞬間、マスクをずらした敦子にキスをされた。

「シュウサク……」
「あ、あっちゃん……」

二人は抱きあってキスをする。
舌も絡む。ごく自然に。
敦子は、だれか来たらなど言わない。
もちろん原田もだ。
二人のキスは、かなりつづいたが敦子からやめた。
キスをしてきた敦子から。

「ハァハァ、シュウサク……」
「あっちゃん、ハァハァ……」
「帰るね」
「うん」
「ふふっ、じゃあね……」

原田は思いきり敦子を抱きしめた。
敦子はマスクをした。
もうおわりだろう。
夢のような時間はおわった。
原田は覚悟した。
するとマスクをした敦子がキスをしてきた。
マスク越しのキス。
敦子の眼はわらっている。
原田もわらってしまった。

「じゃあね」
「うん、気をつけて帰ってね」
「ありがと」

敦子が扉をあける。
ふりかえってニコッとわらった。
手をふった敦子が扉を閉めた。
おわった。
元トップアイドルとの情事はおわった。
つぎはあるのだろうか。原田は思う。
敦子は、じゃあねと何度か言ったが、またとは言わなかった。
それは人妻だからだと信じたい。
もちろん、またがあると信じたい。




―― 完結 ――




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